余談ながら…
2008年 11月 05日

↑千秋楽を迎え、調子に乗っている出演者たち
どうもごぶさたいたしております。「HAPP演劇企画」責任者の和泉でございます。
公演千秋楽の日から、どうもじくじくと腹痛が続きます。風邪を治すためにナロンエース10錠を服用したことが脳裏にちらちらと浮かびますが、まぁそれが原因でしょう。
この世に生を受けてから肝硬変で逝去するまでの57年間、全生涯を通して腹痛と下痢に悩まされ続けた、かの楽聖ベートーヴェンのように、この腹痛がしばらく続くのかと思うと、うんざりしてしまいます。
さて、ベートーヴェンといえば。「シェーンブルンの記憶」の余談をベートーヴェンに絡めてひとつ。
今作「シェーンブルンの記憶」をご覧になった方は、まだご記憶に新しいかと思いますが、劇中終盤、ヨハン大公とミリーが、最初にシェーンブルン宮殿で出会った回想シーンがありましたよね。明石大佐が「ヨハン・サルバドール殿下、あなたは本当に死んでしまったのか?」云々と言った後です。
あのシーンでは、パーティーのさなかといったふうな華やかなクラシック音楽が流れていたかと思いますが、あの曲はベートーヴェンがその生涯で書き上げた膨大な作品群の中でも異例のピアノ・トリオ、ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調作品97、通称「大公」と呼ばれる曲です。
名前の由来は、ベートーヴェンのパトロンであり、弟子であり、また唯一無二の親友であったルドルフ大公に捧げた曲であるため。ルドルフ大公は高級貴族でありながら楽器演奏に造詣が深く、殊にピアノ演奏はプロ並だったと言われる人物です。
当時すでに、ベートーヴェンはほぼ完全に失聴しており、日々激しい腹痛と下痢に悩まされていたため、その性格はたいへん気難しく、乱暴だったといいます。この時期、彼の友人は目立って減っている。しかしルドルフ大公は、そんな彼を慈しみ、また深く尊敬していました。
「大公トリオ」。この小品には、そんな静かに情熱的なあたたかさがあるように思います。
さらに余談ですが、村上春樹氏のベストセラー小説『海辺のカフカ』において、この曲をこよなく愛する喫茶店の店主が出てきます。
「素晴らしい曲です。聞き飽きるということがありません。ベートーヴェンの書いたピアノ・トリオの中ではもっとも偉大な、気品のある作品です。ベートーヴェンは40歳のときにこの作品を書きあげ、これを最後にピアノ・トリオには二度と手をつけませんでした。彼はおそらくこの作品によって、自分はこの様式の頂点をきわめたと感じたのでしょう」(『海辺のカフカ』下巻より)
作中に登場するのは百万ドル・トリオによる演奏で、今作の音響で使われた演奏とは別のものですが、ご参考までに。
ちなみに(すみません、余談はまだ続きます)、昨年HAPP演劇企画「フォルモサ!」においても、この曲の第3楽章を使いました。「フォルモサ!」終盤、沈竜寧(鈴木俊伍)と胡瑛莉(兒玉圭織)が、沈みゆくジャンク船の上で、最後の別れを交わすシーンです。つっても、さっぱりですね。以下のシーンです。↓

竜寧 瑛莉、おれのよこしまな心に、気づいていたか?
瑛莉 どうして気づくことがあろう? 私だけ、なぁんにも知らなかった
竜寧 貴様だけ…。やはり慶妃はお察しだったか?
瑛莉 ああ。今考えると、私をこの船に乗せたこと、それこそが慶妃のご意志だったようだ
竜寧 おれの船がいままさに沈んでいるのは、陛下の思し召しだと言うのか?
瑛莉 (にっと笑い)そうとも言えるな
竜寧 しかし分からない。あれほど慕っていた貴様を、慶妃は捨て駒にしたということになる。船を沈めるための航海に、貴様を乗せるなどとは…
瑛莉 あの方は、冷たいお方だ。しかし、必ずけじめはつける。あの方は、そういうお人だ。私の最後のご奉仕が、むなしいものになっていなければよいが…
竜寧 最後まで、あの方、あの方…。瑛莉、そういう貴様自身は、どうするのだ?
瑛莉 私? 私はこの海というものが大いに気に入った。最後まで、海を感じていたい。船長、この船で最後に沈むところはどこだろう?
竜寧 おそらく、船尾のマストだ。舳先はすでに没しかかっている
瑛莉 ではそこへ行こう。船長、あなたは?
竜寧 おれは生きる。ふだん鍛えた水練で、陸まで泳ぎ着いて見せようぞ
瑛莉 ふふふ。聞くだけ無駄だったようだ
竜寧 瑛莉、おれと一緒に来るか?
瑛莉 (静かに首を振る)時代がもはや私を欲していない。古い人間が新しい時代で生きても、疲れるだけだ
竜寧 そうか。漢族の王朝、大明帝国…。いい夢を見させてもらった
瑛莉 死ぬなよ
竜寧 ははは。船乗りは容易く死なないものだ。じゃあな
(竜寧、軽快に下手へ去る。瑛莉はそれを見て小さく微笑み、奥にはける)
というあたりです。それにしても、去年も今年も、大して変わってないですね。国が違うだけで。
13歳の私が広島県廿日市市立図書館でこのCDを借りてコピーし、21歳の私が神奈川県横浜市の劇場でかけるというのも、なんだか不思議な話です。
ながながと拙筆の余談につきあっていただき、どうもありがとうございました。
# by schoenbrunn_happ | 2008-11-05 18:30










